<金口木舌>水の顔


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 忠孝を説く古典組踊のなかにあって、平敷屋朝敏の「手水の縁」は人気のある恋愛ものだ。士族の子山戸と美しい娘玉津の間に芽生えた情愛を描く。2人を結び付けたのが水であった

▼名護市に残る「許田の手水」の逸話が元となった。首里から訪れた武士が手ですくった水を村の娘に飲ませてもらい、そこから情愛が生まれた。今も残る許田の手水は市指定史跡となり、ネットでは縁結びの地として紹介されている
▼国頭村の辺戸大川はお水取り行事の地である。健康長寿や無病息災を願い、神女らが新年の若水をくみ、首里城へと運ぶ。琉球王府の伝統行事が復活したのは1998年。年の瀬の風物詩として親しまれている
▼「水をくみにやんばるへ行く」という話を耳にする。都市部の住民が湧き水を求める。美味だという。涼を求めて名護以北の河川に集う行楽客も多い。やんばるは水の名所と言えそう。ところが時には凶暴な顔を見せる
▼2日続いた増水騒ぎである。名護市の源河川や大宜味村の平南川で54人の行楽客が取り取り残された。国頭村普久川では19歳の米空軍の女性が亡くなった。濁流が若い命を奪ってしまった
▼水は恋愛を育む。無病息災や健康長寿の祈る場に水は欠かせない。なによりも水は命の源だ。しかし、時には命を脅かす存在となる。水のもう一つの顔を忘れてはなるまい。