<金口木舌>沖縄の犠牲と復興


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 船が転覆し、海に投げ出された母親は3歳の娘と1歳の息子を抱きかかえ、必死に泳いだ。力及ばす娘は波に流された。後にそれを母から聞いた息子は「天命」に突き動かされる

▼弁護士の瑞慶山茂さん(73)は1944年、日本統治下のパラオで米軍の空襲から避難する途中、輸送船が転覆し、姉を亡くした。沖縄では祖母が米軍に狙撃され死亡した。南洋戦と沖縄戦の国賠訴訟弁護団長として国の責任を追及しているのはこの経験が原動力だ
▼瑞慶山さんは「国は沖縄戦被害の回復責任を果たしていない」と主張する。自身の試算では、沖縄戦の人的損害は16兆5千億円超、財産的経済的損失は20~30兆円に上るという
▼沖縄が日本に復帰した72年度から2015年度までの沖縄関係予算は約11兆5千億円で、うち振興事業費は約10兆4千億円。これに復帰前の財政援助を足し、国がこの間に沖縄から徴収した国税約10兆円を引き、戦後70年間でならすと年間100億円に満たない
▼沖縄振興の原点である「償いの心が見えてこない」と瑞慶山さん。子どもの貧困など沖縄の問題は、日本政府が根本的復興策の責任を放置してきた結果とみる
▼菅義偉官房長官は復帰45年に関し「基地と振興策は結果的にリンクする」と語った。新基地建設は新たな犠牲を生む。“復興半ば”の沖縄にとって、これ以上の犠牲は要らない。