<金口木舌>敬う心と継承


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 表紙はぼろぼろになっている。「いっちくたっちく」など、沖縄のわらべ歌が印刷された教材つづりだ。持ち主は関東地方の福祉施設で働く県出身の男性(45)

▼働き始めて施設利用者の中に幾つか沖縄の名字を見付けた。「私もウチナーンチュですよ」。声を掛けた相手はやはり沖縄出身の80~90代。教材を手本に「じんじん」など、わらべ歌を一緒に歌うようになった
▼教材は専門学校でもらったもの。学生時代の男性を指導したのは、わらべ歌の普及に当たる宮城葉子さんだ。福祉の道を目指す学生に、しまくとぅばを学んでもらうため、今も教壇に立つ。中部農林高校福祉科で今月、宮城さんの特別授業があった
▼冒頭、「戦争で心に傷を負った高齢者が多いことを理解してほしい」と生徒らに呼び掛けた。「何かを失った負の記憶がある。だから言葉や文化を残したいとの思いも強い」とも
▼前出の男性によると、県出身の高齢者らは顔見知りになると、沖縄戦などの経験を語ってくれるようになった。壮絶で生々しい話の数々。伝えたいとの強い思いが伝わってくるという
▼男性や宮城さんに共通するのは、高齢者を敬うということである。沖縄戦を語り継ぐことと言葉の継承。どちらも高齢者との意思疎通が鍵と言える。いかに受け継ぎ、つないでいくか。慰霊の季節に、2人から多くを学んだ。