<金口木舌>映画「人生フルーツ」にみる豊かさ


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 スローライフとかロハスという言葉が一時期はやった。必要な物だけで健康や環境に優しく暮らすという意味だ。上映中のドキュメンタリー映画「人生フルーツ」は、ロハスという言葉がはやる前から営まれてきた老夫婦の日常を映し出す

▼雑木林がある庭には、イチゴやクルミ、ジャガイモといった作物が年間100種類以上実る。手作りのジャムやベーコンの薫製を数日かけて仕上げる
▼メールではなく手紙を、炊飯器ではなく土鍋を使う。便利な世の中で「こつこつと時間はかかるが、やり続けると何かが見えてくる」。90歳の建築家の男性はそう話す
▼人間はみんな等しく24時間与えられているはずなのに、映像の中は流れている時間が違う。「高齢で時間にゆとりがあるからできる」と、単純には言い切れない豊かな暮らしがそこにある
▼スマホをはじめとするITは効率をもたらしたが、より多忙となった。貧困問題に詳しい法政大教授の湯浅誠さんは、地域で子どもたちの居場所が求められる背景に「親の長時間労働があるのではないか」と指摘する
▼子どもには「かまってもらう時間」が必要だが、長時間労働がそれを阻害している。多忙故に子育てや家族との時間、手料理を楽しむなど基本的な暮らしを後回しにしていないか。効率より遠回りや無駄な時間こそ尊い。価値転換の時期にきている。