<金口木舌>オールフリーのサービス実践


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 長年の夢だった独立開業からわずか3年で店の壁を壊した。客を癒やす居心地の良い内装は、研究を重ねた自身の作品。それを壊すのは「つらかった」

▼東京都で14席の小さな料理店を営む那覇市出身の大濱孫馨(そんけい)さんは、店の間取りを大きく変えた。玄関を狭くした分、トイレの床面積や入り口を広げた。開業時の改装費約800万円を超える改築費をかけた
▼きっかけは車いすで来店した障がい者の一言。「家に帰って用を足します」。トイレの間口が狭く、車いすが入らなかったのだ。その言葉がずっと心に引っ掛かっていた。「設計ミスだ」。自身の否を認め、改築を決めた
▼先月、奄美空港で車いすの障がい者、木島英登バリアフリー研究所代表が階段式タラップを1段ずつ、腕ではって上らされる事態が起きた。航空会社の社員から「歩けない人は乗れない」などと迫られたからだ
▼航空会社の対応は、大濱さんには「上から目線」に映る。「バリアフリーの概念は壁があることが前提だ。バリアという言葉はかっこ悪い。オールフリーでいい」
▼改築から12年、今では車いすの客が増えた。近所には病院、養護施設、療育園がある。「未来のためにと思い、改築して良かった」。そう振り返る大濱さんには障がいのある娘がいる。大濱さんは心に壁がない「オールフリー」のサービス実践を、身をもって示してくれた。