<金口木舌>残したい香り


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 おばあちゃんの家のにおい。香り草ヤマクニブー(山九年母、和名・モロコシソウ)の香りは、そう例えられる。衣服の虫よけや芳香目的に使われるなど、古くから沖縄で親しまれてきた

▼本部町伊豆味の農家で、出荷の様子を見せてもらった。作業場に近づくと、スパイスが効いたような独特の香りが漂ってきた。黄色の花が咲く6月頃が刈り取りの時期。梅雨明けに蒸して乾燥させる
▼東アジア各地や日本国内にもあるが、粉末にして線香にしたり、エキスを取り出してアロマオイルとして使ったりしている。枝や葉をそのままの形で残し、防虫に使うのは沖縄だけだというから興味深い
▼高齢化などで生産者は年々減っており、関係者は危機感を強めている。県内では伊豆味地区が、ほぼ全ての出荷を担っているが、昨年2軒あった加工生産農家のうち、ことし出荷したのは1軒のみだった
▼本部町は地元の特産品として、栽培方法の継承や生産拡大を目指した取り組みに力を入れている。町内に拠点を置く沖縄美ら島財団も、成分を分析するなど、さらなる活用の可能性を探る研究を始めた
▼若い世代にも利用してもらいたいと、包装に工夫を凝らすなどした商品開発も進められている。琉球王国の時代には、女官たちに愛用されたとされる伝統の香り。次代に受け継いでいきたい「沖縄」の一つだ。