<金口木舌>心の壁は


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 「われらは愛と正義を否定する」。1970年代、脳性まひ当事者を中心に、障がい者運動を展開した「青い芝の会」の行動綱領の一文だ

▼起草した横田弘さんは、脳性まひのある2歳児が介護に疲れた母親に殺害された事件を巡り、「やむを得ない」と減刑を嘆願する動きに憤った。「加害側」に同情する「正義」、障がい者は殺された方が幸せだという「愛」を告発した
▼19人が犠牲になった相模原殺傷事件から26日で1年。被告の殺害予告には「障害者は不幸を作ることしかできない」とある。ネット上で同調する意見もあり、一個人の「狂気」と片付けられない
▼事件は当事者の心を深く傷付けた。糸満市の障がい者支援施設で暮らす伊佐重紀さんは「自分たちは『面倒くさい』と思われているのか」と胸を締め付けられたという
▼「身の回りのことができずかわいそう」「障がい者とは付き合えない」と言われ、傷ついたこともある。だが「不自由は辛い。でも不幸ではない」。障がいは自分の一部でしかないことを健常者に知ってもらおうと、交流を続ける
▼「青い芝の会」の運動は過激とも言われたが、当たり前の暮らしを求めただけだった。50年近くたち、差別解消に向けての法整備は進んだが、共生社会は実現していない。健常者の「心の壁」を取り払うにはどうすればいいのかが今、問われている。