<金口木舌>強面刑事の挑戦


この記事を書いた人 琉球新報社

 澄んだ青空が広がる日が続いている。暑さはいかんともし難いが、酷暑の日ほど夕刻の空は美しく見える。時を追うごとに変わる色彩の連なりで魅了する

▼もう少し夜が進んだ頃合いに記者が動きだすのが夜討ち取材。政治家や警察幹部の自宅、官舎を回る取材のことだ。情報の精度を確かめようと、取材対象の帰宅時の一瞬を狙って会話を試みる
▼警察担当時代、2、3時間待ち続けるのはざらだった。スマートフォンもない当時、立ちん坊の友は空に懸かる月や星ぐらい。やっと会えた取材対象に「何でここにいる」と怒鳴られることもあった
▼県警で刑事部長を務めた稲嶺勇さん(73)の自宅も時折、回らせてもらった。42年間の警官人生のほとんどは刑事畑。本人が言うからいいだろう。自称は「シーサー刑事」で、強面(こわもて)ぶりが想起されよう
▼稲嶺さんが沖縄市の児童養護施設「美さと児童園」の理事長に就いた。ほぼボランティア。「刑事人生を全うできたことの恩返し」と言い、新たな分野に飛び込む
▼気象条件がそろうと夕日が緑色に輝く現象がある。落陽に例えると叱られるが、稲嶺さんの挑戦は輝きを放つ。一線を退きつつもそれぞれの歩幅で社会貢献を志す方々がいる。それは光のあやなす夕景のように社会を彩る。次に続く世代にも力と勇気を与えてくれる。