<金口木舌>境界線越え踏み出す


この記事を書いた人 琉球新報社

 知的障がいがある少年2人の成長を描いた記録映画「able(エイブル)」を見た。小栗謙一監督を招いた講演会が名護市の名桜大学であり、講演に先立ち上映された

▼ダウン症の19歳と自閉症の17歳。2人は米国で若い夫婦の家庭に3カ月間ホームステイし、さまざまな出会いの中で一歩一歩前に進む。2001年に公開され、評判を呼んだ
▼小栗監督は、第2次大戦中のヒトラーによる障がい者迫害を取材し、その実態に衝撃を受けた。同じころ、知的障がいがある人たちにスポーツ競技会の場を提供する「スペシャルオリンピックス」の活動を知った
▼「知的障がいの子どもたちが、どれだけの能力を持っているか伝えたかった」。映画製作を決めた理由について振り返った。障がい者の自立を模索していく映画を作りたいとの思いもあった
▼講演を聴き、神奈川県相模原市の障がい者施設で、入所者19人が殺害された昨年7月の事件を考えた。元施設職員の被告は「障がい者は生きていても仕方がない」などと身勝手な主張をした。事件より先に作られた映画だが、強く反論しているように感じられた
▼講演は言語や文化、固定観念などの「境界を越える」ことがテーマ。小栗監督は「枠を越えて踏み出すことから、新しい展開が生まれる」と強調した。差別のない「共生社会」へ皆が踏み出す意識が必要だ。