<金口木舌>携帯がなくても


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 日に数度、携帯電話を探す。机の上で受信音が鳴るのに見つからない。薄いスマートフォンが本や資料の隙間に紛れてしまう。つまり、整理整頓が下手なのだ

▼ある教育関係者の話に驚いた。旅先のハワイで携帯電話を収めたバッグを忘れ、途方に暮れたという。もしやと思い、手元にあるハワイのファストフード店の領収書を頼りにメールを送ったらバッグが返ってきた。探し上手な人もいるものだ
▼中身の乏しい薄っぺらな財布よりも携帯電話の紛失は困る。知人の連絡先を一気に失ってしまう。何より通信手段がなくなる。電話ができないし、肝心な連絡を受け損ねてはどうしよう。そんな不安に襲われる
▼携帯電話が普及する前のポケットベルの時代を思い出す。これも頻繁になくした。鎖で会社につながれているようだとポケベルを疎んじていたのに、なくした途端に不安になった。結局は依存していた
▼ポケベルがなかった昔もうまく連絡を取り合ったらしい。記者の場合、帰巣本能に頼ったと聞いた。鉄砲玉で飛び出す記者も戻る場所がある。自宅に加え、なじみの飲み屋。難なく連絡が付いたそうな
▼通信機器が築く人のつながりは便利で頼りがいがある。しかし、携帯電話を失った途端、放り出されるようなもろさもある。誰もが知っている戻る場所があるのは心強い。ネット社会の生きる術でもある。