<金口木舌>鉄人のゆえん


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 首里城が赤いのは、漆に弁柄(べんがら)を混ぜて用いているからだ。この顔料、酸化した鉄が主な成分。言うまでもないがさびて赤くなる鉄は、熱しても赤く染まる

▼プロ野球で大記録を打ち立てたこの人の称号は、鋼のような心だけでなく、いかようにも形を変える熱した鉄のように柔軟で優しい心を言い得てもいる。元広島の衣笠祥雄さんが亡くなった
▼後に破られるが、連続試合出場の世界記録がすぐに思い浮かぶ。その8年前の1979年、全イニング連続出場700試合のプロ野球記録への挑戦もあった。結果的にスランプに陥り、あと22試合で先発を外れた
▼起用し続けた古葉竹識監督に批判が向くことを恐れ、「責めは自らに」と強調した。この年の日本シリーズで、孤高のリリーフエース江夏豊さんのピンチを救った声掛けは球史に残る一場面だ
▼カープ初の沖縄市キャンプが行われた82年2月は日差しが少なく、天候に関しては期待外れとも言われた。その中にあって「太陽はなくても暖かいから体が自然に動く」と受け入れ側を安心させる言葉を残している
▼ジャーナリストの本田靖春さんに「勝負の世界で欠かせない物は」と問われ「自分をなくしたらしまい」(「戦後の巨星二十四の物語」)と答えた。フルスイングとフェアプレー、野性味と繊細。自らを頼みに、球場に立ち続けた鉄人を野球ファンは忘れない。