<金口木舌>庶民の芋酒

 100年余の昔、庶民に親しまれた芋酒が復活するという記事が本紙に載った。担当した記者は下戸だったが、「香りがいい」と教えてくれた。このような話を聞くと、酒じょーぐー記者の当方は落ち着きを失う

▼来春の発売まで待てない。これは取材だと言い訳しつつ、沖縄の産業まつりの試飲コーナーに出掛けた。小さなコップに芋酒を注ぐと甘い香りが漂ってくる。さっぱりした飲み心地。うまい
▼1923年に沖縄農林学校に赴任した鹿児島出身の教師、田中愛穂の著書「琉球泡盛ニ就イテ」によると、首里王府には泡盛より芋酒が美味と考える役人がおり「絶エズ良質ナル芋酒ヲサガシ求メテヰタ」という
▼酒造りを担ったのは家庭の女性たちであった。料理のときに余った米や麦、粟などの雑穀や芋、黒糖を原料とし、家に備えた醸造器で芋酒を仕込んだ。田中の著書には「本酒ノ製造ハ農家ノ主婦ノ重大任務デアッタ」とある
▼「庶民の味」と言えば、素朴、家庭的といった言葉を連想する。どの庶民の味もそうであるように、庶民の知恵が絶品の味を生んだ。王府役人をうならせる酒を生む醸造技術が、暮らしに根付いていたことに驚く
▼実は、産業まつりで芋酒を1本買った。でも、今は封を開けるのはよそう。台所で懸命に酒を造った女性たちへの敬意を込め、心の中で芋酒が熟成するのを待ちたい。