<金口木舌>乗り物が凶器に変わる


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 鉄道ファンのうち特に撮影が好きな人を「撮り鉄」と呼ぶ。音好きは音鉄、乗車好きは乗り鉄。バス愛好家で撮影好きは撮りバスとなる。お目当てのためファンは全国を巡る

▼知人のバス運転手は沖縄でも撮りバスを見掛けるそうだ。1978年7月30日、県内の自動車対面交通は右から左に変わった。その年に運行した「730(ナナサンマル)バス」は今も現役で走り、ファンの心をくすぐる
▼昨秋、那覇―名護間の路線バスが法定制限速度を30キロも超過する実態について、本紙が伝えた。運行時刻表(ダイヤ)の所要時間が短く、間に合わせるために速度を上げていた状況が浮き彫りになった
▼きっかけは読者からの情報提供。「スピードが出すぎて危ない。急ブレーキも頻繁だ」。観光客や撮りバスが乗り合わせたら、どう感じたか。報道後、ダイヤは見直された
▼長野県軽井沢のスキーバス転落事故から3年が過ぎた。県出身者を含む大学生や運転手ら15人が死亡、26人が重軽傷を負った。運転ミスが原因とみられ、下り坂で時速95キロを出していた
▼教え子を亡くした尾木直樹さんは、遺族や同級生らが今も心の傷に苦しみ、バスに乗れなくなった学生もいると明かした。「事故は自然災害と違い、人為的なので必ず防げるはずだ」と点検体制の強化を唱えた。安全第一か、営利追求か。企業のハンドル次第で乗り物が凶器に変わる。