「えっ」。12日夜、懇親の席で同僚が声を上げた。とっさにスマホを操作した同僚が流したのは「虹」。電気グルーヴのヒット曲だ。「配信で聞けなくなるかもしれない」
▼メンバーの一人、ピエール瀧容疑者がコカインを摂取したとして麻薬取締法違反の疑いで逮捕された。危惧した通り、電気グルーヴのCD販売やデジタル配信の全てが停止された
▼俳優としても個性的で迫力のある演技が注目され、映画やドラマの出演も多かった。麻薬の摂取は許されない。青少年への影響も考えると、責任は追及されなければいけない
▼だが、残した作品まで排除するのは過剰な反応ではないか。芸能人が逮捕されると、過去の作品の放送や販売が自粛される傾向が強まっている。被害者のいる犯罪は別として、以前は麻薬絡みの罪を犯しても過去の作品まで排除されなかった芸能人もいる
▼中止が続くピエール容疑者の出演作だが、映画「麻雀放浪記2020(にーぜろにーぜろ)」は20日、公開が決まった。監督は会見で「作品に罪はないのではないか」と話した。繰り返される自粛に一石を投じることになればいい
▼映画や音楽は個人でつくり上げたものではない。多くの人が汗を流した結晶が一人の行為で無になるのはやり切れない。行為を許せなければ見たり、買ったりしなければいい。過度な自粛は知る権利を奪うことにもつながる。