<金口木舌>植民地主義を問い直す


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 アイヌ民族を初めて「先住民族」と明記した新法「アイヌ民族支援法」が成立した。政府や自治体の責任で産業や観光の振興を進めるほか、アイヌ以外の国民との共生や経済格差是正も図る

▼ただ2007年の「先住民族の権利に関する国連宣言」で明確にされた土地や教育などの権利は、同法に盛り込まれなかった。付帯決議で国連宣言を尊重するよう政府に求めるにとどめたため、アイヌ関係者から批判もある
▼とはいえ近世以降、厳しい同化政策で独自の文化を奪われたアイヌにとって、尊厳を取り戻す一歩となる。新法はアイヌの人々に対する差別を禁止した。ヘイトスピーチの規制につながると評価する声がある
▼参院で新法に反対したのは日本維新の会・希望の14人だけで、与野党を問わずほとんどの議員が賛成し、可決した。歴史に向き合うことは、日本人が植民地主義を乗り越えるために不可欠だ
▼アイヌ民族と同様に明治期以降、同化政策によって苦難の道を歩まされたのが沖縄だ。皇民化教育と戦争によって独自の言葉や文化、土地、財産、命を奪われた。現在も経済格差に苦しみ、デマやヘイトスピーチにさらされる
▼かつての宗主国が植民地に対する過ちに向き合う議論が国連などで続く。今も残る植民地主義を問い直す動きだ。国内でも議論が広がれば、沖縄の歴史への理解も深まるはずだ。