<金口木舌>拒む政権、痛みに鈍感


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 3両を落とした大工、拾った左官が互いに意地を張り受け取らない。大岡越前守が1両を足し、職人たちに2両ずつ渡す。3人が1両ずつを損して解決させる。落語「三方一両損」だ

▼無欲な職人には共感もできようが、こちらには打算を感じる。老後に2千万円の蓄えが必要だという金融審議会の報告書について麻生太郎金融担当相は「誤解、不安を招く」と受け取りを拒んだ
▼政権が気にするのは国民の未来よりも目先の参院選への影響か。受け取らないから関連質問も答えないと閣議決定した。都合の悪い現実、その火消しに躍起になっているようだ
▼都合の悪い事実を国がひた隠しする。その結末を知っている。勝ち続けていると大本営発表をうのみにし、74年前の沖縄は戦火に包まれた。その前年の対馬丸撃沈ではかん口令が敷かれ、肉親の死すら遺族に伝わらなかった
▼5月、沖縄戦体験を福島県で証言した渡口彦信さん(92)は「国が全て正しいと信じさせられた。われわれはみなロボットだった」と強調した。体験者の多くが教訓として伝える
▼「安心安全な年金」「美しい国」。言葉の響きはかつての「富国強兵」と重なる。自身が年金を受給しているかという質問に、麻生氏は「秘書に任せている」とし、答弁できなかった。国民の痛みには鈍感らしい。そんな今の政治を大岡越前守はどう見るのだろう。