<金口木舌>本屋の原点


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 本を詰めたかごを担いだ男の石像が村の広場にある。イタリア・トスカーナの山深い村の人々は古くから本の行商で生計を立ててきた。内田洋子さんが「モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語」(方丈社)でルポしている

▼各地を歩いて最新トレンド情報を収集し、出版社を訪ねて本を運ぶ。かつては民主主義の意識の広がりを恐れた小国家が禁書を指定する中、スカートに隠して届けるなど重宝されたらしい。知への欲求に寡黙に応じる。本屋の原点だ
▼書店調査のアルメディアによると、全国の書店数は2019年5月で1万1446店。約20年で半減した。平均売り場面積は00年の約231平方メートルから約393平方メートルへと広がっている。個人経営の書店が消え大型書店が増えた
▼仕事の合間に立ち寄った琉球新報社近くの本屋も閉じて久しい。ネット経由で本を買うのも普通になったが、リアルの書店だからこそお目当て以外の本との出合いがある
▼書店にはそれぞれ顔がある。書店員のこだわりに身を委ねてみるのも楽しい。東京の青山ブックセンター六本木店跡にできた入場料を払う書店「文喫(ぶんきつ)」も面白い挑戦だ
▼本屋大賞の立ち上げに関わった嶋浩一郎さんは、リアル書店には想定外の情報との出合いがあると言う。経済効率だけでは取りこぼしてしまう何かがある。新たな出合いを求めて、本屋へ行こう。