<金口木舌>教えは伝わっているか


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 かつて知人が近所で評判のラーメン店に行けないとぼやいていた。ラーメン店に行くには国道にまたがる歩道橋を渡らねばならず、彼は車椅子で生活していたからだ

▼歩道橋が普及するきっかけは1964年、大阪でのこと。松下電器創業者の松下幸之助が、資金難の大阪市に建設費を寄付したことだ。公共のために私財を投じるあたり、当時はさすが松下の声もあった
▼一方、知人の嘆き通り、高齢者や車椅子生活者に歩道橋はかなり不便だ。私より公を重んじる松下翁の思想はよしとしても、人より車優先の社会を築くきっかけを生んだことには疑問も少なくない
▼「私より公」。そうした次代の人材育成のために翁が開いたのが松下政経塾。野田佳彦首相を筆頭に民主、自民の閣僚経験者をはじめ、自治体首長など77人の政治家を生んでいる
▼気になるのは「難局を打開する新たなリーダー」の誕生を求めた松下翁の思想が“教え子”をはじめ現在の政治家に伝わっているかだ。政経塾出身者に限らず「日本の安全」の大義の前に「沖縄」という小異を踏みつけるような場面で声を上げる政治家がいないのは残念だ
▼効率を求めて弱者への目配りを忘れる―歩道橋ではないが、社会的弱者や一部地域に犠牲を強いる政党政治、選挙公約であってはなるまい。多くの政治家が好む「大局観」が弱者置き去りでないことを願う。