<金口木舌>心の旅楽しみたい


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 知人が「自炊を始めた」と言うので、家庭内で何かあったかと邪推したら、書籍を電子化する「自炊」だった。数年前の笑い話だが、彼は蔵書をスキャナーなどの機器を使ってデジタル化し、パソコンで読めるようにしていた

▼本の内容をスキャナーで吸い込む「自吸い」が語源という。ただし画像データとして取り込むために本を背表紙側から裁断する。「本を切ってバラバラにするなんて」。アナログ派としては胸が痛む
▼本の電子化はますます進むようだ。米国生まれ電子書籍専用端末キンドルの参入で業界の競争が本格化。機種によっては200グラムを切る軽量、雑誌1冊分を持ち歩く感覚で千冊以上の書籍を保存し、いつでも読めるというのは魅力だ
▼しかし自炊にしろ、電子書籍にしろ、端末で読む本は“情報”というイメージでどこかしら味気ない。これに対して、紙の本は現実の世界から別世界へ連れ出してくれる“旅の道具”のようなものだ
▼画面上で閲覧できる電子書籍は便利ではある。しかし絵本を手始めに活字文化と親しんできた世代としては、本棚の背表紙を眺めて悦に入ったり、希少本を集めたり、手触りを楽しむといった紙の魅力も捨てがたい
▼本の置き場所に困るウサギ小屋住まいの身であっても、紙をめくって心の旅を楽しむ自由な時空ぐらいは確保したい。アナログ派で悪い?