<金口木舌>生きる源、音楽の力


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 20代の駆け出し記者時代、取材先の先輩方との2次会は演歌が響く店が多かった。聞いたことのないメロディーに戸惑いつつ、楽しげに歌う人を邪魔しないよう愛想笑いでごまかした

▼以来、おじさんイコール演歌と思い込んでいたが、目からうろこの話をハードロックバンド「紫」のジョージ紫さんに聞いた。脳梗塞で倒れた名護に住む60代の男性のことだ
▼その男性は倒れてからほとんど出歩かず、髪やひげは伸び放題。ところが今年1月、名護市で久しぶりに紫のライブがあると知り一変した。ライブ当日は自ら身支度を整え、ステージに駆け上がらんばかりに元気を取り戻したという
▼失語症気味だったが、紫の話題になると家族との会話もスムーズになったそうだ。紫さんも「待っててくれる人がいるから僕らのモチベーションも上がる」と男性の復活を自分たちのエネルギーに変えていた
▼紫が活躍した1970年代にロックの洗礼を受けた当時の青年や紫さん自身が60代。いまやおじさんイコールロックの時代が来ているのかもしれない
▼ロックやフォーク、演歌などジャンルは違っても、それぞれの人にお気に入りの1曲があるだろう。名護の男性が精気を取り戻したように音楽は人を華やがせ、時には生きる力にもなる。聞く側にも元気を与えてくれた紫のエピソードに音楽の力をあらためて見直した。