<金口木舌>甲殻を見透かす眼力で


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 一目見て「おおっ」と思わず声を上げ、じっくりと見直して「うーん」とうなった。巻き貝を模したガラス製の容器の中にオカヤドカリが収まっている。当然、胴体は丸見え。何やら見てはいけないものを見てしまったような

▼沖縄市立郷土博物館の企画展「よろいをまとった生き物」での試み。腹部を守り、水分を維持するため巻き貝に入り込む習性に着目した実験だが、透明のガラス貝で身を守るというのもいじらしい
▼ちなみにオカヤドカリは国の天然記念物で保護が求められる甲殻類の生物だ。ガラス貝暮らしも9日に展示会が終われば一区切り。本物の巻き貝に引っ越して元のすみかへ戻るそうな
▼博物館の一室でふと思い出したのが、長野県知事だった田中康夫さんが実践したガラス張り知事室のこと。次々と新基軸を打ち出す田中さんによる行政可視化の試みは大きな話題となった
▼それとは正反対なのが衆院選の選挙事務所。可視化や透明化とは真逆の機密保持。他陣営との競り合いの中で深謀遠慮も渦巻く。秘密の“戦略室”の出現で街に緊張感が漂うのも選挙の常
▼当の候補者と言えば党という甲羅で身を固め公約をまぶした言葉で精いっぱい自らを飾る。それでも論戦を重ねるごとに化粧や甲殻の下から実像が現れる。沖縄の行く末を見据える眼力でその瞬間をしっかりと見届けよう。