<金口木舌>「小沢昭一的こころ」を後世にも


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 子どものころから寄席に親しんだ俳優の小沢昭一さんが、大変な魔力があると言ったのが大道商人の口上だった。人を集めて最初はたらいや器をタダで差し出す。次に10円で品物を渡し、最後は千円ではさみを売る。口上に乗せられワァワァ大笑いで商売は終わる。客のおばちゃんたちの中心にいるのは実はサクラなのだが…

▼農夫が畑を耕すように、舌を振るって食を得ることを「舌耕(ぜっこう)」という。そんな商いを小沢さんは舌耕芸と呼び、大道芸や門付けと同じ放浪芸として記録した。「芸能は地べたでやるのが原点だ」と
▼6年前、沖縄で講演した時は、徘徊(はいかい)癖のある母親を遠くまで捜しに行った体験を語ったが、介護の大変さを感じさせない軽妙な語り口に会場は笑いに包まれた
▼ラジオから舌を振るって人を笑わせ、時にほろっとさせ、時に頬を赤らめさせた。そんな語りで「小沢昭一的こころ」は39年、1万回を超えた。一見くだらないことも真面目に考察し、芸にした
▼軍国少年だった。「けれども、見よ東海の空はあけず、旭日高く輝かなかった、あの打撃の後遺症はまだまだなおっておりません」と言う。続けて「“愛国”はごめんこうむりたい」と
▼俳号は変哲。「秋風やこの橋俺と同い年」。若い世代との懸け橋となって、もっともっと、忘れられない後遺症を伝えてほしかった。