<金口木舌>「個」を大切にする社会を


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 「ねー、おじさんさあ」。入社間もないころ、取材相手の児童からこう声を掛けられ「えっ、俺、おじさん?」と一瞬言葉に詰まった。これはまだ笑えるが、子どもの間では冗談では済まないことが多々あるようだ

▼今年の全国中学生人権作文コンテスト。県大会の受賞作には、悪気のない言動がいじめにもつながる経験などがつづられた。生い立ち、容姿、障害、中には笑顔でさえいじめの対象になった
▼「手を伸ばし助けたい」。いじめに遭う一人の少女からの同じ境遇の仲間を気遣う一文。言葉は使い方次第で傷口を広げる“刃物”になるが、苦しんでいる仲間を励まし救う力にもなり得る
▼全国の小中高校では、本年度上半期のいじめは14万4千件で前年の2倍超。大津市の中2男子自殺を受けた丁寧な調査が、小さな声を拾い上げた側面もあるというが、なお氷山の一角だろう
▼一方、嫌がらせは大人の社会でも増える。労働局に寄せられた2011年度の相談は過去最高の4万6千件。厚労省の調査では、32%の企業が過去3年間で職場でパワーハラスメントがあったと回答した
▼悩みに気付かないのか、気付かぬふりをしているのか。パワハラ相談に対し、3割は何の対応もなされなかったという。この国は人を思いやる心をどこに置き忘れたのか。「個」を大切にする社会を取り戻さねばならない。