<金口木舌>ドナルド・キーンさんの記憶


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 戦争とは悲惨なものだ。67年前に苛烈な地上戦を経験した沖縄では、その教訓を伝えようと継承を続けている

▼このほど来県した日本文学者のドナルド・キーンさんは、米軍の通訳として沖縄戦を体験した。平和主義者のキーンさんは「無意味に大勢の人が死んだ。生涯忘れられない」と、戦争のむごさを語っている
▼しかし、キーンさんの心には、当時感じた沖縄の人の温かさも残っているようだ。戦争のさなか、部下だった県系2世の比嘉武二郎さんに、おばの家に昼食に招待され歓待を受けたという。「敵を見たら憎いと思うはずだが、『ようこそ』と丁寧に言われ、とても温かい雰囲気だった」と振り返る
▼「沖縄戦 米兵は何を見たか」(吉田健正著)でも、このエピソードが紹介されている。昼食をもてなされたキーンさんは、片言のウチナーグチで「クヮッチーサビタン(ごちそうさま)」と感謝した。キーンさんが唯一知っているウチナーグチだったという
▼国や文化が違っていても、人々はつながり合い、心を通わせることができることを教えてくれる。「人間は交渉ができる」とキーンさんが言うように、各地で起こる紛争を平和的に解決し、二度と愚かな戦争を繰り返してはならない
▼67年前の記憶を今も語り続けているキーンさん。私たちも、多くの犠牲によって学んだ教訓を必ず次の世代につなげられるはずだ。