<金口木舌>水の国と水のない国


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 穏やかな日和で明けた元日の朝。「若水くみ」を生まれて初めて体験した。出掛けたのは浦添市の沢岻樋川(ひーじゃー)。地域の人から由緒ある泉と教えてもらった

▼枯れたことがなく、千年前から地元で重宝されているそうだ。琉球王朝時代には国王の若水として献上されていた。今も、辺戸大川の水と混ぜて首里城へ奉納する復元行事が続けられている
▼一般には廃れつつある習慣かと思いきや、意外にも、ペットボトルを手に訪れる姿が何人も見られた。若水で入れたお茶は、身も心も改まるせいか一味違う気がした。おのずと背筋がしゃんとなり、自然の恵みに畏敬の念が湧き上がる
▼命の源である水も、外に目を転じると厳しい現実がある。国連の報告では、世界70億人のうち9億人は汚れた水しか飲めない。それが感染症を引き起こし、汚水に起因する下痢で毎日4400人の子の命が失われているという
▼途上国では水くみは女性や子どもの労働で、10キロ以上歩いていくこともある。水事情が良くなれば、学校に行け、女性が仕事に就くことができ、貧困から抜け出せる
▼ことしは国連が定めた「国際水協力年」。誰もが安全な水にアクセスできることを基本的人権と捉え、改善に力を入れていく。水が手軽に飲める環境にいることに感謝しつつ、同じ水の惑星に住む遠い地の人たちにも思いをはせる年にもしたい。