<金口木舌>文化の継承―食卓から


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 沖縄の正月といえば豚肉料理。三枚肉を煮たラフテーや、内臓を丁寧に調理した中味汁がかつては必ずあった。年末になると父親が先頭に立って台所を切り盛りした記憶がある

▼やんばるで60代以上の先輩方に昔話を聞くと、復帰前は年末になれば、正月に食べる豚を集落のあちこちで自ら解体したという。そのころ、子どもたちがはやし立てる言葉も教えてもらった。「一番ウヮー(豚)はあそこの家だ」
▼解体する時に響く鳴き声が、真っ先に聞こえてくる家が「一番ウヮー」。この鳴き声が響き渡ると、いよいよ年の瀬も押し詰まり、無事に正月を迎えられると実感したのだという
▼今ではそうした習慣もなくなり「一番ウヮー」という言葉も年配の方の記憶にしか残らない。若い世代の家庭では正月の豚肉料理すら消えつつある。ことしの正月は、目にしたごちそうの中に伝統料理がほとんどないことに気付かされた
▼食、習慣、言葉。一つにつながっていた沖縄の伝統文化を形作る要素が身近なところから失われつつある。ウチナーグチを残そうという試みは大事だが、食文化や習慣も同時に継がないと言葉の継承の意味が薄れかねない
▼イリチー(炒め煮)やシンジ(煎じもの)という言葉がある。何でもかんでもチャンプルーやおつゆでは本来の姿が見えなくなる。文化の継承―食卓からも始めてはどうだろう。