<金口木舌>「清貧」の心を今いちど


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 「メザシの土光」と呼ばれた元臨調会長の土光敏夫さんは質素な生活で知られる。東芝の社長時代は、自宅にカラーテレビもエアコンもなかった。「家電メーカーの社長なのに」と見かねた社員らが取り付けた

▼そんな逸話を思い出したのは、ウルグアイのホセ・ムヒカ大統領の6日付記事を読んだからだ。豪華な公邸に入らず、田舎暮らし。報酬の9割を福祉に寄付する。「世界最貧で最高の大統領」の生き方は映画か小説のようだ
▼昨年6月の国連会議では「ドイツ人が1世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てばこの惑星はどうなるのか」と物質至上主義に厳しく警鐘を鳴らした。ネットで話題となり世界の共感を集めた
▼「清貧」という言葉が流行したのはバブル崩壊直後の1992年ごろ。中野孝次著「清貧の思想」がベストセラーになった。金・モノへの執着を捨て、つましく生きることを勧めたが、「貧乏人の痩せ我慢」「消費は悪か」との批判も出た
▼しかし本来、物欲や我執にとらわれず、足るを知り、自由で豊かな内面生活を送るのが清貧の主眼だ。「低く暮らし高く思う」の心である
▼震災直後、列島に広がった節約ムードは薄れつつある。新政権とともに原発待望論も息を吹き返した。「貧乏とは、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」。大統領の言葉は日本にも向けられている。