<金口木舌>「個人の尊厳」と体罰


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 雇用創出15万人、経済効果3兆円。2020年東京夏季五輪実現に伴う波及効果の試算だ。スポーツの底力を経済発展に絡め「復興を世界で共有」と意気込む東京都の五輪招致の思いは分からないでもない

▼半面、メダル数や経済利益の追求が先に立つ風潮に、限界に挑むスポーツの意義を忘れないで―とも思う。そんな折、ある記事が目に止まった。ボクシングと出会い生活を一変した中学生の話題(6日付本紙市町村面)だ
▼敬遠しがちだった授業に出席するようになり、「感謝」の念も自然に芽生えたようだ。本人の努力と、親や学校、PTAなど周りの「変わってほしい」という願いがかみ合った。スポーツの潜在力を垣間見た
▼一方、大阪市で部活顧問による体罰をきっかけに高校生が自殺、スポーツの在り方が問われている。これまで体罰を容認していた橋下徹大阪市長は「甘かった」と認識を改め遺族に謝罪した
▼大学の恩師、垣花豊順氏の「教育の基本は個人の尊厳」との言葉を思い出す。那覇保護司会で非行に走る子どもの更正にも関わっていた。教えはあらゆる場面で人間の価値が最優先されることを示していた
▼スポーツをする以上勝利を目指さないわけにはいかない。だからこそ、社会全体で再確認する必要があろう。「体罰」で子どもたちの尊厳を、スポーツの名誉をこれ以上傷つけない、と。