<金口木舌>一念発起


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 仕事を終え、深夜にタクシーで帰宅することがよくある。ある日、タクシーに乗った際、苦学をする男性乗務員の話を聞き、仕事の疲れが吹き飛んだ

▼この乗務員は鈴木謙典さん(36)。愛知県で家業の手伝いなどをしていたが、自分の道は自分で切り開こうと一念発起し、4年ほど前に沖縄に移住した。泊高校通信制を卒業後、昨春沖縄大学に入学した
▼夜間のタクシー乗務をしながら、ソーシャルワーカーを目指して勉学に励む。平日は大学に通い、乗務は週末が中心。金曜日は、午前中に講義を受け、仮眠後に乗務することもあるというから、なかなかハードな生活だ
▼タクシー乗務の収入だけでは学費までは十分に賄えない。泊通信制時代からタクシー乗務をし、こつこつとためてきたお金を充てているという。「大学でいい成績を取って、奨学金をもらいたい」と声を弾ませた
▼大学で福祉を学び、資格を取得するのが鈴木さんの目標だが、学業と仕事の両立は口で言うほどたやすいものではないだろう。「歯を食いしばってやってます」と笑いながら言うのを聞いて、こちらまで心が熱くなった
▼“苦学運転手”のタクシーに乗ったのは13日夜。この日の乗客の大半は、晴れ着に身を包んだ新成人だった。鈴木さんの言葉は若者たちへのメッセージにも聞こえた。夢に向かって突き進むのに年齢は関係ない、と。