<金口木舌>天才たちの背中が教えるもの


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 「おはよう」。娘の友達に声を掛けると「顎が震える」と服の襟を立てていた。“風の子”の子どもらもこたえるムーチービーサの時季に、熱戦だったのは囲碁の棋聖戦沖縄対局だ

▼ともに天才と呼ばれる張棋聖と井山本因坊の攻防は囲碁ファンをくぎ付けにした。対局の実況を見ながらの大盤解説会にも人だかりができ、ファンには棋士の息づかいを楽しむ、またとない機会となったようだ
▼天才と言えば、今回の解説者、知念かおり四段も出身地宮古島で頭角を現し「天才子ども棋士」と称された。18歳でのプロ入段後は通算4期女流本因坊タイトルを保持。女流棋聖との2冠も経験した
▼1997年10月、知念さんの女流本因坊戦の対局を取材した。第1子の出産を控えた身重で、体を気遣いながらの大一番は「天性の勝負師」と時本壱師匠に言わしめた粘りを結実させ、初の頂点に立った
▼あれから15年。今では一回り以上も下の世代との対局も多いが、勝利への執念は色あせない。昨年8月、8年ぶりの復位を目指した女流本因坊本戦決勝で敗れた際の「またチャンスも」との言葉がそれを裏付けよう
▼衰えぬチャレンジ精神では、女子テニスの42歳、クルム伊達さんも代表格。コート上の姿は同世代ならずとも感銘を受ける。諦めない気持ちが人間の可能性を切り開く。天才たちの背中が教えている気がする。