<金口木舌>大人の背中


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 銭湯が少なくなった。本島内にはもう2軒ほどしか残っていないという。自宅に浴室がある、入浴はシャワーで済ませ湯船に漬かる必要もなし。そんな環境変化もあって銭湯経営は厳しくなっているのだろう

▼残るうちの1軒、那覇市泉崎の日の出湯に行った。風の冷たい夜。「冬場は温まりに来る人が多いんだよ」。“番台”に座る高良ツヤ子さん(81)が言う通り、引きも切らさず客が訪れていた
▼那覇高校近くのこの地に銭湯を開業したのは半世紀余り前。「もうかる商売じゃない」と高良さん。ボイラーが故障したりすると、修理代もばかにならないという
▼しかし「最近はお客さんから、私たちの健康維持のためにもやめないでほしいと言われる」と、高良さんは笑顔を忘れない。経営は楽ではないが、常連客のこんな気遣いが銭湯を続ける気持ちを支えているようだ
▼銭湯はしつけ、気遣いの場だった。湯船に入るときは体を洗い、せっけんをよく落としてから漬かる。お湯を跳ね上げない。走り回ったり大声を出さない…。子どもは注意されたり、大人の“背中”を見たりしながら、マナーや他人への気遣いを学んだ
▼大人もわが子だけでなく、よその子を注意するなどお節介だった。だが今や銭湯どころか地域にもお節介な大人は少ない。大人や社会は、子どもとどう関わるのか。時代に問われている気がする。