<金口木舌>命を吹き込まれた学校跡


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 うるま市与勝半島の先に点在する島々で「寂しい」というつぶやきを幾度も耳にしたのは昨年春。平安座、宮城、浜比嘉、伊計の学校統廃合を前にした地域住民の悲嘆と不安は深く、切実だった

 ▼朝夕の通学路から子どもたちが消える。授業を知らせるチャイム、校庭ではじける歓声が途絶えてしまう。島の住民が抱く切なさは、都市部の新興住宅地で暮らす者には想像しにくいかもしれない
 ▼地域活動の核でもあった学校なき後の島おこしは知恵の絞りどころ。そんな中、1日から伊計小中学校跡で二つの美術展が人気を呼んでいる。生活に潤いをもたらし、島を元気付ける取り組みと言えそうだ
 ▼かつて子どもたちの声が飛び交っていた廊下や教室は、県内各地から訪れた人々でにぎわいを取り戻した。島での日常生活とはそれほど縁がなかったであろう美術展が人を呼び込み、活力を生んでいる
 ▼工芸品や美術作品を鑑賞しながら、校舎の窓から島の風景を楽しむこともできる。この学校で学んだ子どもたちも窓の向こうに広がる風景を眺めながら、自らの将来と伊計島の未来を見詰めたのではないかと想像してみた
 ▼創立から109年。過疎化の中でいったんは歴史を閉じた伊計小中学校が美術展によって新たな命を吹き込まれた。伊計の魅力づくり、島おこしの学校として未来を切り開く歩みを重ねてほしい。