<金口木舌>拳と人生


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 かつて沖縄は「ボクシング王国」と呼ばれた。具志堅用高さんをはじめ多くの世界チャンピオンを輩出した。今もなお王国復活に熱い思いを抱く人がいる

 ▼琉球ボクシングジム会長の仲井眞重次さんもその1人だ。最近、県内ではなかなか試合が行われなくなったが、1人でも多くの県民に、ボクシングに打ち込む若者のひたむきな姿を見てもらおうと、24日に中城村民体育館でのチャリティー試合を主催する
 ▼王国を築いた時代の若者と今の若者の違いについて「ハングリー精神かな」と仲井眞さん。物の豊かさをはじめ生活環境の変容に伴って、知らず知らずのうちに勝利に対する意欲や闘志が薄れてきたのかもしれない
 ▼ボクシングは、ただ勝てばいいというものではない。減量や過酷なトレーニング、そして試合での相手との駆け引きなど、いくつもの課題を乗り越えた先に勝利はある。「ボクシングは人生と同じ」と言う仲井眞さんの言葉に同感だ
 ▼ただ、拳は時として凶器にもなる。人にはない武器を、争い事の解決のために使うことはボクサーとして失格だ。指導者はそんなことも日々の厳しい練習の中で伝える
 ▼汗を流し、一つのことに打ち込む姿は、見る者にもすがすがしい。ボクシングを通して、人生の試練に正面から立ち向かう人間がどんどん育ってほしい。その延長線上に王国復活の夢を託したい。