<金口木舌>詭弁を弄さぬ政治を


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 ある発言から。「お酒を飲むと酔う。ビールでもウオッカでも酔う。どちらにも水が入っている。ゆえに、水が酔っぱらう原因である」。真顔でこう言う人がいたら嘲笑されるのが落ちだ。「詭(き)弁(べん)論理学」(野崎昭弘著)という本で詭弁の一例として紹介されている

▼では、この発言はどうだろう。「こんな憲法でなかったら横田めぐみさんを守ることができたかもしれない」。この国の最高指導者が公の場で放った言葉である
▼改憲派の仲間内での弁とはいえ、拉致事件の因果を憲法に結び付ける思考は国民の共感を得られるとは思えない。改憲すれば万事が解決するかのような物言いは、当時、政権党だった責任をお忘れのご様子だ
▼昨年末の衆院選後、改憲派が勢いづいている。敗戦後、GHQに押し付けられたから、真の独立国として自主憲法を-というのがよく聞く改憲論だ
▼だが、国家としての誇り、威厳を保ちたいのなら、先に取り組むべき不平等条約がある。日米地位協定の改定こそ、独立国家ニッポンの主権を取り戻す一番の方策なのに、こちらは従属外交に甘んじている
▼自らの主張のためなら理屈も膏薬(こうやく)もくっつけるのが政治の世界と言われればあまりに寂しい。どうせなら「こんな地位協定でなかったら沖縄県民を守ることができた」と言ってほしい。詭弁を弄(ろう)さずリーダーシップを示してもらいたい。