<金口木舌>都会でこそしがらみを


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 中城村長の浜田京介さんから興味深い話をうかがった。進学先の関西から久しぶりに帰省した娘が部屋の明かりをともすと、近所から1本の電話がかかってきた。「娘さん、帰ってきたんですね」

▼田舎と言っては失礼だが、都会では失われつつある豊かな人の縁が、今もこの地に息づいている。長年、宜野湾市で暮らし、16年前に父祖の地・中城に越してきた浜田さん自身、新鮮な驚きだったという
▼そんな話を披歴しつつ「しがらみは気持ちいい」と浜田さん。濃い人間関係は、時として煩わしいしがらみとなり、物事を進める上での障壁となる。それを「気持ちいい」ととらえる感覚こそ、当方には新鮮な驚きだ
▼「しがらみを打破する」とは選挙でよく耳にする旧体制批判の常とう句。この言葉から連想するのは因習であり悪弊か。しかし、それを地域づくりに生かす発想の転換があってもいい。物は考えようだ
▼しがらみに漢字を当てれば「柵」。水流をせき止めるため川に打ち込んだ杭に柴や竹を絡ませたものを指す。和歌の世界では涙をせき止める衣の袖を「袖の柵」と詠む。こう聞けば、しがらみの印象も広がる
▼沖縄でも人間関係の希薄化が広がっている。そこからこぼれ落ちる人々の憤りや嘆きをすくい上げるしがらみを都会でこそ求めたい。生身の人間によるセーフティーネットの再構築と言い換えてもいい。