<金口木舌> 名記者が残した思い


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 高校球児が熱闘を繰り広げる季節はテレビ中継や新聞のスポーツ面を見るのが楽しい。その中でも特に心待ちにする記事があった。元共同通信編集委員の万代隆さんが書くコラムだ

 ▼2002年夏、復帰30周年を記念し、名護高校主将が始球式を務めた時は「甲子園を夢見た先人の思いと、現役選手の思いが解け合った1球ではなかったか」と記した
 ▼10年夏には「沖縄県人の皆さん、今夜は泣きながら祝杯を挙げましょう」と書き、興南の春夏連覇をたたえた。歓喜に沸く県民の心のど真ん中への直球。興南旋風から豊見城、沖水、沖尚など進化を遂げた沖縄野球への賛辞があふれていた
 ▼沖縄のチームに限らず、高校野球や選手、監督らに向ける目は温かかった。名将や名選手らを描く評伝も長い取材の蓄積を感じさせた
 ▼万代さんのコラムに一貫するのは「野球への愛」だろう。過密日程に苦言も呈した。それは素晴らしいプレーを願ってのことだ。常に栄冠をつかんだ勝者の努力をたたえ、敗者のプレーにも必ず光る部分を見つけていた
 ▼その万代さんが2月28日に亡くなった(1日付31面)。戦争、本土復帰、強豪県へと、歴史を踏まえた視点で沖縄野球を描くコラムはもう読めない。ただ数々のコラムに学んだことがある。野球に限らず「勝者をたたえ、敗者を思いやる」視線。名記者が残した思いを継いでいきたい。