<金口木舌>民衆の力伝える「不屈館」


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 「沖縄県那覇市」「刑務所隣り」-。宛先のない封書やはがきがずらりと並ぶ。反骨の政治家・瀬長亀次郎宛てに市民から送られた手紙だ。米軍の圧政にあらがう姿勢を支持する文面からは、いかに庶民に慕われていたかが伝わってくる

▼那覇市若狭に1日開館した「不屈館-瀬長亀次郎と民衆資料」は、激動の沖縄戦後史を生きた資料で学べる場所だ。ただ、ここはカメさんの個人資料館ではない。次女で館長の内村千尋さんは館名に「民衆」の文字を入れることに心を砕いた
▼「父は弾圧の象徴ではあるが、民衆の支えのおかげで一つ一つ権利を勝ち取っていった。カメジローを英雄視せず、民衆の力を伝える場所にしたい」
▼カメさんは日記や蔵書など膨大な資料を残した。展示されているのは1割ほど。残りの整理、分析はこれからだ。歴史の証人となる貴重な宝がまだ眠っているかもしれない
▼米軍がこの島に及ぼしてきた理不尽な状況は依然改善されていない。カメさんは63年前こう演説した。「瀬長一人が叫んだなら50メートル先まで聞こえる。(略)沖縄の70万人民が声をそろえて叫んだならば、太平洋の荒波を越えてワシントン政府を動かすことができる」
▼今、米軍普天間飛行場の返還問題でそのことが問われているのだろう。資料館の外壁に彫られた「不屈」の力強い文字が、私たちに進むべき道を示している。