<金口木舌>引きこもり


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 「私が死んだらこの子はどうするのかと思うと夜も眠れない」。ある父親が嘆いた。「この子」というのは30歳を過ぎた、身体的には健康な男性。部屋に閉じこもり、家族ともほとんど接触しようとしない

▼その後、別の企業経営者からも長兄が長く引きこもりだと聞かされた。家族は引きこもりを恥じてなかなか外に支援を求められず、そのうちに50代になった
▼20~59歳の働き盛りで未婚、無職の人のうち、社会と接点がない人を「孤立無業者」と呼ぶ。英語の略語SNEP(スネップ、Solitary Non‐Emploed Persons)は今後、よく聞く単語となりそうだ。東京大学のグループの調査では162万人に上り、就職難やリストラで5年前より4割増えた
▼親が元気なうちは未婚で無職でも暮らしていける。しかし、支援がなくなれば即、困窮する。知人や友人がいなければ社会復帰や就職は難しいだろう
▼この国は小泉改革以降、失業も貧困も「自己責任」という名でやり過ごし、矛盾を家の中に押し込めてきた。しかし、それが生活保護費の増加要因の一つと推測され慌てだした
▼働かない、働けない人たちの増加は、就労を個人の問題と捉えるやり方の限界を表す。自身の経験になぞらえて「再チャレンジ」を掲げる安倍政権。「真の再チャレンジ」に向け、国民的論議、チェックも必要だ。