<金口木舌>平和のアジマー


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 沖縄戦記録フィルム1フィート運動の会がきょう解散する。寂しさがこみ上げてくる。今こそ存在意義が求められるときなのに、という無念さもあるが、今は感謝を込めて「お疲れさまでした」と言いたい

 ▼「子どもたちにフィルムを通して沖縄戦を伝える会」が正式名称。フィルム購入に多くの浄財が寄せられ、各地の上映会は満席となった。1フィート運動は県民運動となった
 ▼平和集会の賛同者や声明文の連名者に「1フィート」の文字があった。平和団体の連絡調整役を担い、那覇市内の事務所にはさまざまな人が行き交った。平和運動のアジマーといった趣だった
 ▼その真ん中にいたのが、長年事務局長の任にあった中村文子さん。小さな体で牽引(けんいん)力を発揮し、いつも笑顔でアジマー周辺の住民に接した。しかし、その笑顔が時として曇りがちになることもあった
 ▼自衛隊海外派遣、憲法改正の動き。中村さんの願う方向に国は進まなかった。海外に赴く女性自衛官の姿が掲載された新聞紙面を手でさする中村さんの沈痛な面持ちが忘れられない
 ▼解散に合わせて記念誌「未来への道標」が発刊された。1フィート運動の会は沖縄戦という過去を見つめ、戦争の傷と基地の重圧に苦悩する現在と向き合うことで未来を切り開いた。吹き飛ばされぬよう、その歩みをしっかり受け継ごう。平和のアジマーを心に据えて。