<金口木舌> 誠を尽くす


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 身分の違う男女の愛を描いた組踊「手水の縁」。演奏される仲風節は「誠一つぃぬ浮世さみ ぬゆでぃい言葉ぬ 合わんうちゅが」と歌う

 ▼「誠を尽くして語る言葉は相手に必ず通じる。話し合うことで理解し合える」との意だ。その言葉を繰り返し使った崎間麗進さん。沖縄の芸能、風俗を研究し、伝えてきた
 ▼口癖は「踊りはただ型をなぞればいいというものではない。踊り手の心、誠が出る」。琉球舞踊の重鎮たちも崎間さんが話し始めると背筋を伸ばし、一言一句聞き漏らすまいとしていたことも印象深い
 ▼新米記者にも沖縄の芸能や風俗を丁寧に教えてくれた。それも郷里への愛着あってこそ。10代後半で琉球王朝時代の御冠船踊の流れをくむ玉城盛重翁に弟子入り。戦後は研究の傍ら青少年の健全育成に力を注いだ。「古典芸能や童謡など祖先が残した文化は問題児を生み出さないための助言を与える」
 ▼「手水の縁」はロミオとジュリエットの沖縄版だが、シェークスピアの話と違うのは、娘を処刑しようとした部下が愛し合う二人を逃がしてハッピーエンドになるところ。「誠を尽くせば必ず通じる」という歌意が生きるのだ
 ▼「話し合うことで理解し合える」。東シナ海波高く、きな臭さが漂う昨今の世情で崎間さんの言葉は重い。大正生まれ、沖縄人(うちなーんちゅ)の心を知る先輩を、私たちは失った。