<金口木舌> 誠小が歌った「時代」


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 登川誠仁さんには正調の民謡に加え、観客の笑いを誘うような、遊び心あふれる持ち歌がある。その中でひと際楽しくて、沖縄各地のシマクトゥバの面白さを伝えてくれるのが「せんする節」

 ▼本部町備瀬、宜野座村惣慶、幼少期を過ごしたうるま市東恩納などの言葉の抑揚を模して、ユーモラスに語る。これらの地の言葉を知っている者なら思わず噴き出してしまう
 ▼極めつけは嘉手納での軍作業で聞いたフィリピン言葉が「うむしるむん」(面白い)という下り。その意味は理解しがたいが、敗戦後の沖縄の空気が漂ってくる。民謡で時代の一断面を切り取った
 ▼山内盛彬の曲「ヒヤミカチ節」も代表的な持ち歌。「七転(くる)び転で ヒヤみかち起きれ」の歌詞と威勢良いはやしで、ウチナーンチュを鼓舞した。登川さんの歌唱と三線の早弾きが復帰前の激動期にマッチした
 ▼戦後民謡界の巨人にしてエンターテイナー。小柄でひょうひょうとした風貌。「誠(セイ)小(グヮー)」の愛称で親しまれた。映画「ナビィの恋」のヒットでその名は全国区になった。稽古では厳しく弟子に接し、今日の民謡界を引っ張る唄者を育て上げた
 ▼頑固一徹、茶目っ気もたっぷり。病床でも夜中、歌を口ずさんだ。ウチナーンチュを励まし、心を和ませた数多くの島唄を残し、嘉手苅林昌さんや照屋林助さんら先達が待つ地へと、登川さんは旅立った。