<金口木舌>「平和の歌」はいつ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 いつもより早まった桜の話題で新聞もテレビも持ちきりだ。青空にハラハラと散る薄桃色の花びらの美しさは格別で、花の下で宴をする習慣のない沖縄人としてはうらやましい光景だ

 ▼入学式、入社式。新しい季節の象徴となる花である。4月に没後101年となる歌人、石川啄木は「花散れば 先づ人さきに白の服 着て家出づる 我にてありしか」と詠んだ。花が終わると衣替えを待てず夏服姿になった若き啄木の高揚感が伝わる
 ▼安倍政権も春を迎えて“高揚”したのか。気象庁が東京都心の桜満開を発表した22日、政府は米軍普天間飛行場の移設先とする名護市辺野古の埋め立てを申請した
 ▼米メディアは「リ・スタート(再始動)」と評したが、首長も議会も強く反発する移設計画が再始動とはいかないことは沖縄に住んでいれば分かる。見通しが立たない中で先を焦る理由が、米からの圧力というなら、何をか言わんやだ
 ▼啄木はまた「草に臥(ね)て おもふことなし わが額(ぬか)に 糞(ふん)して鳥は 空に遊べり」と詠んだ。空は無心に見上げるもの、落ちてくるのは鳥の糞くらいという平和な歌は、今の沖縄とは無縁だ
 ▼空を見れば鳥どころか、“空飛ぶ棺おけ”と称される航空機が今にも落ちかねない。青い海には巨大な米軍基地が造られようとしている。花に酔う人々とは同じ国民と思えない現実が、春に際立つ。