<金口木舌>歴史を刻む重さ


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 自治会や郷友会単位の記念誌発刊が盛んだ。編集の担い手は地域のお年寄り。シマの歩みをたどりつつ、懐かしい名前や言葉を拾い上げ、「アンヤタン」を合言葉にページを編んでいく

 ▼出来上がった本は数百ページに及ぶこともある。編集の大仕事を成し遂げる原動力は生まれ育ったシマへの愛郷心と同じ歴史を歩んできたシマンチュ同士の連帯感。そのことが本全体から漂ってくる
 ▼うるま市具志川区の「具志川字誌」もそんな1冊、というよりも全4巻1800ページの大作だ。80人が執筆に参加。300人余の区民が証言や座談会で協力し、15年をかけて今月完結した
 ▼外部の識者に頼るのではなく「みんなで作る字誌」を理念に掲げた。わがシマの風土と歴史に真正面から向き合うという矜持(きょうじ)の表れなのだろう。それがつらく、悲しい歩みだったとしても
 ▼具志川は「集団自決」(強制集団死)が起きた地でもある。字誌はそこから目をそむけず、悲惨な事実を記録した。担当したのは「集団自決」の生き残りだった。おそらく痛みを伴う作業だったはずだ
 ▼沖縄戦記録に触れ、字誌の序文は「先人の歩まれた足跡をしっかりと見詰めなければなりません」と記す。自らの歴史を直視し、文字に刻んだ15年に裏打ちされた訴えだ。その重さを受け止め、首相の言う「主権回復の日」の軽薄さをしっかり見据えたい。