<金口木舌> 沖縄現代史の中で輝く波


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 復帰運動をけん引した屋良朝苗さんの背後で、曙(しょ)光を浴びた波が光る。基地問題や人権問題の解決、沖縄戦体験の継承に取り組む人々の背でも。沖縄現代史の沸点となった現場を収めた写真の一こまだ

 ▼現場とは那覇市松尾にある教職員共済会館・八汐荘の大ホール。波とは琉球大学名誉教授で画家の安次富長昭さんがホールの壁面を飾ったレリーフのこと。タイトルは「黎明(れいめい)」
 ▼屋良さんが校長を務めた知念高校を卒業した安次富さん。まな弟子として教職員共済会理事長だった屋良さんの依頼を受け、レリーフを手掛けた。大海原に昇る朝日、輝く波をイメージしたという
 ▼赤や青に彩られた波は穏やかに見えるが、八汐荘が完成した1960年6月、沖縄、日本はともに荒波のただ中にあった。沖縄ではアイゼンハワー米大統領が訪問、
日本では安保闘争が最高潮を迎えた
 ▼日本政府の多額の援助で完成した八汐荘。当時の紙面は「里子に出された沖縄の教職員に対する祖国の贈りもの」と記す。その建物は米軍統治への抵抗
の拠点となり、復帰後も祖国の現実の姿を問う場となった
 ▼今年秋に取り壊される八汐荘は安保のひずみを沖縄に押し付けてやまない日米両国の向こうを張って、平和・自主・自立を論ずる根城としての宿命を負った。壁面に張り付く鉄製の波一つ一つに沖縄の希望や願望を鮮やかに反射しているようだ。