<金口木舌>支援の気持ちをずっと大切に


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 宮城県の名工で宜野湾市出身の陶芸家・石川吉彦さん(67)が東日本大震災で被災後初めて帰郷し5日、名工の技に触れてほしいと浦添市美術館に自らの作品を寄贈した。理由は被災地支援に対する沖縄への恩返しだ

▼沖縄にその思いを支えた友がいた。震災時、陶器を焼く窯は全壊、仕事場も半壊した。40日間ライフラインが止まる中、食糧や見舞金が次々届く。50年以上連絡を取っていない人からも励まされた
▼「酒でも飲んで元気出せよ」。中でも與世田孝さん(68)=次郎長寿司社長=は泡盛など多くの物資を送り続けた。石川さんは7年ぶりに再会し涙ぐみ「大変な時にそんなことを言う人はいない」と皮肉交じりに感謝の思いを述べた
▼2人は約50年前に出会った。自動車大手トヨタ初の高卒者全国募集本社採用組だ。トヨタで一緒に過ごしたのはわずか4カ月だった。與世田さんは「沖縄一のすし屋になる」と修行のため東京へ。石川さんは後に陶工になった
▼全く別々の人生を歩んだ2人は震災を機に宮城と沖縄の約2千キロの距離を超えて絆を深めた。石川さんは恩返しを通して沖縄とつながることを復興へ向けた精神的な糧にしている
▼震災直後に全国で叫ばれた絆だが、2年が過ぎ、薄らいではいないか。息の長い支援を社会にどう広げるか。2人が心を通わせる姿から大きな宿題をもらった気がする。