<金口木舌> 自分の力で立て


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 「改善できなければ私はクビになります」。女性の校長はきっぱり言った。1990年代前半に英国の公立中学校を訪ねた。いじめが社会問題化していた英国を取材したのだが、校長の返事は「学校内の問題は管理職の責任」

 ▼成果が出ない、保護者の評定が悪い、生徒を集めきれない…そんな校長は解職の対象となる。サッチャリズムと呼ばれた規制緩和と民営化は学校現場にも及んでいた。教育の場に競争原理や成果主義が徹底していることに驚くとともに違和感も覚えた
 ▼英国中部の小都市で雑貨商を営む家に生まれた少女は後に「鉄の女」と称される。厳格で敬虔(けいけん)なキリスト教徒の父は娘に贅沢(ぜいたく)を戒め、勤勉と努力によって「自分の力で立て」と教えた
 ▼英国初の女性首相に就くと、英国病と呼ばれた経済低迷に大胆なメスを入れた。「小さな政府」を掲げて規制を緩和し、労組の力をそぎ、財政を切り詰め、減税も進めた
 ▼荒療治の結果、世界の金融センターの地位を確立するなど英国経済は立ち直った。半面、自分の力で立てない人はさらに社会の底辺に追いやられ、今に続く深刻な貧富格差を生んだ
 ▼英国ではいまだ「愛するか憎いかのどちらか」と形容されるサッチャー元首相。自助努力と自己責任を重んじる考え方は、一方で社会不安も生んだ。良くも悪くも世界の政治の形を変えた政治家だった。