<金口木舌>社会全体で育てる


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 今年、東京・杉並区などで保育所に入れない子の親が行政に異議申し立てをしたことが子育て真っ最中のママ友の間で話題になった。みな保育所探しに苦労した経験の持ち主だ

▼子どもは社会全体で育てる。少子化が課題になって以来、国はこう強調してきた。児童福祉法は、自治体には保育が必要な子どもに保育を行う義務があると定める。介護保険の導入の際にも「介護は社会全体で担う」と喧伝(けんでん)された
▼夏の参院選に向けて改憲論議が活発化している。政権党の自民党は昨年、憲法改正草案をまとめた。憲法改正の要件を国会の3分の2から過半数に緩和する96条改正や「国防軍」創設に目が行きがちだが、ほかにもおやっと思う条項がある
▼例えば「家族」だ。家族を「社会の自然かつ基礎的単位」として「互いに助け合わなければいけない」と明記する。聞こえのいい言葉だが、真意は身内の世話は家族で担えということだろう
▼自民党憲法改正本部事務局長の中谷元氏は、講演で「介護や養育は社会でやるべきと言う主張もあるが、財政的に持たない」と財政上の問題だと認めている
▼憲法が国の形を決める大事な枠組みなら、9条や96条だけでなく幅広い議論が必要だ。このままでは子育ても介護もすべて自己責任と言われかねない。これって国の責任放棄では。暮らしに憲法を取り戻す。この点もじっくり議論したい。