<金口木舌>霞が関文学の読み方


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 村上春樹さんの3年ぶりの小説が売れている。発売初日の深夜には行列ができ、7日目で発行100万部に達した。文学不振、出版不況の中、業界の期待は熱い

▼一方、衰え知らずで脈々と受け継がれているのが「霞が関文学」だ。助詞や文字一つで都合よく解釈を変えられる官僚特有の作文技術を、こう呼ぶ。「善処する=何もしない」「Aをやる=Aだけをやる。他はやらない」が一例だ。もはや一般常識では読み解くのが難しい
▼東北に充てるべき震災復興予算も、「日本全体の再生」という文言を入れることで、反捕鯨団体の監視活動や東京の税務署改修への流用を可能にさせた。魔法の力を持つ“文学”だ
▼在沖米軍基地の返還・統合計画では、目標年限に全て「またはその後」が付いた。元経産省官僚の古賀茂明氏は「その年まではやらないということ。言葉のまやかしだ」と見抜く
▼首相や閣僚がおうむ返しのように発する言葉も怪しい。霞が関文学で言えば、「沖縄県民の声を聞く」は「何度も知事を訪ね努力したふりのアリバイづくりをする」、「沖縄の理解を求める」は「最後は力ずくで言い聞かせる」の意味か。4・28式典での「沖縄に配慮する」も「聞き置くだけで具体的には何の行動もしない」と解釈できそうだ
▼魅力ある文学は人々の心を動かす。体温の感じられない言葉からは何も響いてこない。