<金口木舌> 人と機械の知恵比べ


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 11年前、名人挑戦の経験もある将棋のプロ棋士、森下卓九段が沖縄を訪れた際、指導対局を受けた。森下九段が飛車角などを使わない「6枚落ち」で挑んだが、簡単に負かされた

 ▼以来、プロ棋士は凡人に手が届かない存在だと畏敬の念を抱いている。ところが、3月に始まったプロ棋士5人とコンピューターソフトの5番勝負で、初めて公式の場でプロ棋士がソフトに敗れた
 ▼これまでプロ側の1勝2敗1分け。最終局が20日にあり、人間が面目を保つか、コンピューターに負け越すのか注目される。人と機械の知恵比べ、軍配はどちらに上がるか
 ▼将棋ソフトの進化に限らず、コンピューターの世界の進歩は目まぐるしい。個人でパソコンを使い始めた15年前は想像もしなかったが、今や離れて暮らす親きょうだいの近況をフェイスブックで知る時代
 ▼仕事や趣味で幅広くコンピューターの便利さを享受するが、気になることもある。例えば人と会っても携帯端末から目が離せない「依存症」などだ。道具に人が操られている印象を持つ
 ▼進化した道具を活用し、社会の発展につなげられるかはあくまでも人間次第。将棋ソフトがいくら強くても、棋士が全身全霊を傾ける勝負のようなドラマは生み出せない。きょうの大一番、勝ち負けも大事だが、人とコンピューターがどう向き合うか考えるきっかけにもしたい。