<金口木舌>目配り気配りの功罪


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄市にある食堂の店主から聞いた話。初めてのお客さんが店内に入ってきた時、まず服装を確認するという。作業服姿なら味を濃いめに、背広姿なら薄口にするのだとか

▼客の姿を見ては機敏に味付けを変える。鍋ばかりを見ていては仕事にならない。常に客席への目配り気配りが求められる。「だから年を取っている暇はないよ」と店主は笑う
▼家庭ではどうか。雑誌「暮しの手帖」編集者、花森安治さんは「一つの内閣を変えるよりも、一つの家のみそ汁の作り方を変えることの方が、ずっとむつかしいにちがいない」とエッセーに書いた。63年前のことだ
▼せわしさの中で、毎日の食生活を改めるのは至難の業だということを花森さんはみそ汁の味に託して言い表した。確かに代わり映えのない食事を繰り返す間に、内閣はころころと変わった
▼変わったのは内閣だけではない。1年前に日米合意で解いた普天間返還と嘉手納より南の施設返還のパッケージが米軍基地返還・統合計画で復活した。日米合意とはその程度のものらしい。西銘恒三郎さんの辺野古移設容認にも驚いた。県外移設を掲げた選挙公約は撤回するという
▼目配り気配りを重ねた末の判断なのだろうが、向き合う相手が違う。手だれの西銘シェフがこさえた普天間問題解決メニューも結局は日米両政府の味覚に沿ったもの。県民の口には合わない。